スコープスベノン

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スコープスベノンは蠍毒(かつどく)として知られる蛮族の平原で、未開な世界である。
かつて海であったところが隆起してできた平原で背の高くない草原が広がり、むき出しの岩がごつごつと広がっている。この平原には大群で移動する毒を持つ鹿や渡り鳥など恵まれぬ植物に豊富で多めの獣が生息する。人間も家畜も例外なく草原の草に頼っている。
この土地に文明が入ってこないのはまず、自然の猛威が挙げられる。五、六月くらいにやって来る嵐、「草原のうねり」は枯れ草と土砂を運ぶ風で、風速が立っていられないほどに及ぶ。このような風のために草原の草は低く生え、がっしりとした根を持つ木さえ折られることもあり、無論人間の知恵や手ではどうしようもないほどである。また、粘土が少ない点も耐えられぬ理由の一つであろう。
しかし、文明が入り込めない最大の理由は平原そのものにある。平原がかつて海だったときに落下したらしい鉄分の非常に多い巨大な隕石片が散乱しており、そのためこの蠍毒平原においては弱い魔法は力を発揮しないのだ。
魔法の死ぬ世界──それはこの蠍毒においてのみ、である。
隕鉄を鍛えただけの粗末な武器でも力はある。蠍毒の住人は戦いを避ける者たちではない。戦いと叫喚は平原の歴史となっている。
平原の人々は自らを守ることを心得ており、戦いで死ぬことを最高の名誉としている。慈悲を知らず、野蛮を好む……
エギナ帝国時代、平原は同じように部族同士の戦いを行なっていたが、現在と違い、彼らは馬を知らず、跳躍してすすむ乗り心地の悪い毒鹿に乗っていた。弓の使用はできず、戦闘には役立つとは言えない獣であった。投石、投網、骨や角の棍棒による戦いから、北カスターナ連合王国建国を経て、鉄器と馬を知り、平原はより血を好むようになった。

平原についての研究、探検家として著名なエルソン・ベッヂ著“神不在の地”

『スコープスベノンの地においては見られないものがある。文字と情けと太平、そして老人である。大抵の男は戦いで死ぬため、四〇歳過ぎる者はほとんどない。男は三五歳になると、“生存権の闘い”を行う。男は生存を宣言し、それに反対するものが戦いを挑むのだ。これは他部族の者でも奴隷でも良い。宣言者は大抵殺されるが、勝つこともある。反対者は殺してはならないとする。これを三年後、その六年後、一二年後、三六年後……に行う。これは彼ら部族内の臆病者を排斥する儀式行事である。ただし反対者は二名までみである。僧侶については例外である。僧は女しかなることができず四、五歳から教育を始める。彼女らは生涯結婚せず、詩を語り継ぐことを役目とし、生きている図書館の役割を果たす。部族やや他部族を問わず蠍毒平原内では大切にされる。一族の長は彼女らの助言を聞き、部族を治めるのだ。これらは平原において共通のものだったが、エギン帝国時代末期から減少し、ゆっくりと廃れていっている』


僧侶制度はまた盛り返して、“生存権の闘い”も再興している。エルソンは一二五〇年に平原に入った。一二六二年の僧侶反乱は大嵐の多発は掟が廃れたためだとして平原内の僧が集結してカルゾ山に籠り、「祖霊神」に訴えたため、大嵐の続発と獲物の枯渇、疫病の発生、干魃という状況が起こり族長はそれぞれの僧に降伏し、以前には見られなかったほどの権力を与え、儀式に従った。
「祖霊神」は平原の神々で、五〇柱ほどある。蠍毒祖霊神群に分類される強大な神のグループであり、平原に及ぶ。神群の全ての神は異世界の一つである「祖霊界」に通路を持つ。平原ができる以前、海原であったこの地はあまりに強い隕鉄に神は退き、その新天地にこの神々も入ってきたのだ。


エゼル系、キューナ系、カスタナ系の三系統の蛮族が平原の北部から東南部に広がり、また人間以外にも黒エルフ(ブラックエルフ)族や蠍毒オーク族、ゴブリン族が分布する。
ペディオン付近の蛮族は非好戦的で畑作や牧畜を行うところもある。蛮族とは呼びにくい部族となっている。以下主要部族を挙げる。

アデルナ族

キューナ系でペディオン南部。平原の森林部に環濠集落。溜め池による灌漑で野菜、穀物、体高が人間より大きい肉用ウサギ、羊、乳山羊を育てる。非好戦的であるが男は全員、戦士であり、整った装備を持つ。キューナ系最大の蛮族でもある。裸馬に騎乗し、投石器を用いる。生活域が隣り合っているゼルテリ族とかつては戦乱があった。対立は現在も解消していない。

クロア族

エゼル系で北カスターナや蠍毒エゼリア東部、つまりババン山地の麓に分布。段々畑を営み山地の起伏部に横穴を掘り家屋を接続。男たちは好戦的で勇敢な兵となるのが特徴で、体の様々な部位に磨いた獣の骨を身につけている。馬は使うが人員や荷物の輸送に用いるのみである。現在は槍兵の活躍で北カスターナ連合王国内に領土を持つ氏族もある。“蠍毒の山地人”という別名もある。狩猟も好み、弓を使用する。

メーマッシュ族

カスタナ系で北カスターナ連合王国で友好的な商業、交易を奨励している。マスグレート湿地北東岸に生活域を持つ。“茶”を栽培する。湿地付近は多雨地帯で草が良いため、その草原を守るため充分な兵力を持ち装備も良い。しかし狩猟は好まない。旅行を神聖として色々な方面に氏族を作っている。装備は交易で入手した北カスターナのものである。メー(メル)とは緑、マッシュ(マスフ)は人で“緑の人”を意味する。

カズマッシュ族

キューナ系でマスグレート湿地に居住する。野蛮な部族で、カズとは“泥”で“泥の人”。だか彼らは自分たちをマッシュアーグ(マスアーグ)と自称する。その意味は“人でなし”であり、それは自分たちをおこがましくも神だと考えるからである。湖上生活を営み、漁労を行う。オムダン湖にも居住する。原始的なキューナ語の古語を使う。略奪を好む。

ゼルテリ族

エゼル系でその最大勢力を持つ。三つの支族に分けられる。一氏族は定住、他は遊牧部族である。定住支族は牧畜を行い、集落を作り、要塞化のため石塁と望楼を建てている。魔法や不可解なものに無理解で警戒することは共通で、また、軍事力の維持に努めている。力を誇示する素朴な部族で三支族は仲が良い。ただし、一支族はアデルナ族と険悪である。また、定住派の一部はオムダン湖西部に移動してきている。

サクテイズ族

カスタナ系で南下し、ラジェスへ攻撃している。サンタリアを生活圏としていたが他部族が侵入してきたため、家畜も家屋も捨ててやってきた。老若男女問わず、全員が戦士である。“サンタリア国”を滅ぼし、エギナの混血や奴隷を持つ。

サンター族

カスタネ系で、サンター山地に住んでいたが、武力でもってサンタリアへ侵入した。サクテイズ族を略奪し追い払った。サクテイズ族はもっと肥沃な土地を求めていたということも幸いした。未だに毒鹿に乗り、棍棒で戦う。狩猟生活を主とし、略奪の総本家である。やはり未だに本拠地を山地においている。カスタナ語のひどく訛った古語を用いている。

アウマー族